参:夏の終わり [13/14]

 「……してないからです。いつまで小鳥に名付けないでいるつもりか、と」
 「そうだねぇ」
 何やら躊躇いがあるらしく、ずっと適当に呼んでいた。まぁ、良い事ではないだろう。
 「えぇ、名のないままにしておくのは良くないと言われました」
 「それで、決まったの?」
 「……えぇ。もうずっと、それしかないと思っていましたから。『朱雀(すざく)』はどうだろうかと」
 「ふぅん?」
 朱に雀と書いて『朱雀』。
 あの小鳥は顔が赤いし、南方が原産だという。朱雀は四神のひとつで、南を守護するものだ。
 言われてみれば、似合うような気もする。
 「いいんじゃないの?」
 丈夫に、元気に育ちそうな名だ。
 「えぇ……」
 ハザードランプを点滅させ、タクシーが教会の門前に停車する。
 結己が呼んだ車だ。
 小雨に濡れるのを頓着しない蘇芳に、後ろから、結己が傘を差し向けつつ続く。
 横に並ぶと、蘇芳のほうが少しだけ背が高い。
 二人してタクシーに乗り込み、結己が運転手に行き先を告げる。
 結己の部屋で、彼の恋人の沙那(さな)が、浄めの塩を用意して待っているのだという。
 それもまた可笑しい話ではあるが、面白いのでついて行こうと思う蘇芳であった。

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©2006/三上蓮音