参:夏の終わり[12/14]
得てして、都合の悪いものは見えなかったこととして人の脳は処理する。その、「都合の悪い」ものの幅は、それぞれに違う。
蘇芳は、それをよく知っている。
教会の中で、二枚の写真を見せられた。
一枚は、和服を着た、清楚で凛とした若い女性。髪は結い上げている。
もう一枚は、市松人形だった。市松にしては、やや髪が短い。
どちらも同じ紗の着物を着て、どこか面ざしが似通っているようにも見える。小首を傾げている様子も同じだった。
それを見て、蘇芳は漸く合点がいった。
自分が遭ったのは、この女性であり、人形であったに違いないと。
幼子を生き写した人形は、彼女の望みを叶えるために器となって働いたのであろう。
同じ場所で生きられなかった者たちが、せめて死しては添い遂げようと、蘇芳や結己を利用したのだ。
鍵となるのはやはり巳結である。
巳結は彼らのロマンスを知っているのだろう。蘇芳はそう確信した。
言葉を持たぬ手向けの花が、しかし雄弁に物語っていた。
「そういえば、巳結に叱られてしまいましたよ」
傘立てから傘を取りながら、結己が言う。
「おや、珍しい。何をしたのさ?」
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