参:夏の終わり [10/14]

 一宮は背の高い若い男で、弁護士でなければ代議士か政府の要人か、というような威圧感を全身に滲ませているのだが、結己によれば、どうも見掛け倒しらしい。
 一見すると堅苦しく融通が利かないようだが、口を開けば、物腰が柔らかく、驚くほど人が善いのだそうである。
 外見と内面のギャップが面白いのだと、可哀想な言われ様をしていた。
 献花は、棺の上に薔薇の花片を散らすものだった。
 これも巳結の発案なのであろう。美しさと儚さ、悲しさといったものが相俟って、その後、長く心に残る事となった。
 棺を見送り、朝凪に別れを告げた。火葬場へは二人とも遠慮する。
 結己に気づき、棺に寄り添った一宮が軽く会釈して見せた。
 棺の上から零れ落ちる花片が、幻想的であった。
 一宮たちの後ろを、小さな子どもがついて行くのが蘇芳には見えた。
 その姿は人形のようであった。
 教会の外に出ると、まだ少し雨が降っていた。
 穏やかな雨だと蘇芳は思う。
 何時の間にか、薄日も差している。
 狐の嫁入りとは、少し違うだろうか。ただ、晴れてきたということだろうか。
 葬儀だというのに、不思議な穏やかさを感じていた。

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©2006/三上蓮音