参:夏の終わり [8/14]
「やはり、事件性はないとの見解です。監察医務院による行政解剖の結果では、朝凪老……朝凪氏は、熱中症による多臓器不全で亡くなったということです。ここ数日の暑さで、食欲も落ちていたのでしょうね。水分は摂っていたようなのですが……」
「確か、体調に不安があったんだよね? 弱っていたところに、この猛暑か。老人には厳しい環境だよね」
「そうですね。熱中症の怖いところは、感覚が麻痺するのが先なので、気がついた時には倒れていたり手遅れだったりするところです。暑さで、しかも屋内で死ぬなんて、昔はなかったのかもしれませんしね……」
年々、東京の亜熱帯化は深刻になり、熱中症による死者も増えている。
そして、高齢者の死亡数が圧倒的に多い。
若年層では、屋外作業やスポーツなどによる労作性の熱中症が多いが、高齢者に多いのは、熱波による古典的熱中症と呼ばれるものだ。
これは、屋内でただじっとしていても起こりうる。
高温となった室内にいて、知らぬ間に体温が上昇する。しかも汗はかかない。汗をかかないということは、体に籠った熱が外に出ていかないで蓄積されてしまうということだが、それに気づかない。
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