参:夏の終わり [6/14]
巳結は、そこに何かを見出だしたのだろうか。
「一宮(いちみや)は、優秀な弁護士ではありますが、やはりこういうことは女性のほうが、スムーズに事を運ぶ術というものを心得ていますからね」
結己は、言葉を選んで話していた。
他人の耳もある。聞かれたくない事もある。
ならば黙っていればいいものだが、蘇芳に気遣っているのだろう。
話が聞けないならば、こんなところにいる意味はない。言外に、そう匂わせてしまっているのかもしれない。
「男が何人集まっても、女性一人に適わないことがあるからねぇ」
蘇芳も、話を合わせる。
本当に……。女性とは偉大だと蘇芳は思う。
男とはまた違った情を持ち、幼き少女であっても聖母の如き慈愛を示すことがある。
それに、巳結は楸(ひさぎ)一族なのだ。
結己が現れるまで、一族の当主候補だったこともある。鎮魂の技には長けている。
「そうですね……。町内会でも、弁護士の一宮より、巳結の存在のほうを有り難がっていた節がありますよ」
一宮が愚痴っていたのを思い出し、結己は苦笑する。
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