参:夏の終わり [5/14]
彼女のしたことならば、何か意味があるのだろう。そう蘇芳は思った。
「えぇ。通夜の祈りにも出席していました」
「そうなの?」
珍しいこともあるものだ。
巳結は、人との関わりを避けて暮らしている。
「朝凪老とは懇意にしていたらしくて……。色々と助かりました」
「そう……」
ならば、彼女の眼鏡に適う人物だったということか。巳結は元来、人嫌いではない。
「アンティークを探していて、『琥珀』を訪れたのだそうです。それで、話をするうちに巳結が人形の衣装を作っていることを知って、朝凪老から仕事を頼まれ……。何着か、古い着物を人形用に仕立て直したと言っていました」
「それってもしかして、いちまさん?」
「……だそうです。売り物ではなくて、個人的な品だったそうですが」
「そう……」
市松人形は、基本的に「子ども」である。
子どもの遊び相手であると同時に、子どもそのものでもある。
そして、人形というものは、人の姿に似せた形代(かたしろ)である。我が子の災厄を代わって引き受ける、「器」たり得るものだ。
商品としてではなく、私的に大切にしていたならば、何か謂れのある品なのだろう。
next
┌ 小説Index
└ Index
©2006/三上蓮音