参:夏の終わり [4/14]

 だが、「なんとなく仏教」という意識が人々の中に存在しているのも、また事実であろう。
 お宮参りや七五三は神社、結婚式は教会、そして葬式は寺。日本人ほど、状況に応じて宗教を使い分ける民族もいない。
 「そうですね……。ご近所の方も、誰も、朝凪(あさなぎ)さんがクリスチャンだとは知らなかったのですよ」
 聖歌が終わり、列席者は皆着席する。
 司祭による聖書の朗読と、祈祷とが続けられる。高く朗々とした声が聖堂内に響き渡った。
 主祭壇の前には、花で飾られた棺がある。
 そこに横たわっているのは、朝凪という老人だ。
 生の喜びも苦しみも終わりを告げ、帰天するのだという。
 父なる神の座す場所。天国。
 彼は、そこへ行くことを選んだのだ。

 「あの花は、巳結(みゆう)が誂えたんですよ」
 棺に目を投じたままの蘇芳に、結己がそう言った。
 言われて初めて、目が離せない理由に思い至る。
 違和感だ。
 花束は、白を基調としているが、差し色に使われているのはピンクである。
 その色の持つ穏やかさ、華やかさは、寧ろ、結婚式に用意した花だと言われたほうが、余程すんなり受け入れられる気がした。
 「みゅーちゃんが?」

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©2006/三上蓮音