参:夏の終わり [3/14]

 そこかしこに光の粒が、きらきらと漂っている。
 入り口に近い、やや後部の信者席に、結己(ゆうき)はいた。地味なスーツ姿は、普段と何ら変わるところがない。
 「ちょうど始まったばかりですよ」
 足音を立てていないというのに、結己は振り向きもせず、蘇芳の気配を察して声を掛けてきた。
 顔は正面を向いたままだ。
 蘇芳は薄く微笑んで、結己の隣へ並び立つ。
 「涼しくなったからね……」
 我知らず、言い訳のような言葉を口にする。
 気温など何も関係ないことは、二人とも承知していた。蘇芳は、こういった場が苦手なのだ。
 「通夜もここだっけ?」
 確か、電話でそう言っていた。
 上の空で聞いていたが、覚えてはいる。だから場所も間違えずに来れたのだ。
 「えぇ。ご家族もいらっしゃいませんし……。でも、遺言してくれていて良かったですよ。そうでなければ、お寺で葬儀をするところでした」
 「カトリックとはねぇ。ちょっと意外だったかも?」
 日本では、宗教の自由は法律によって守られている。
 原則として、人がどんな宗教を信奉していようと構いはしないし、それは尊重されて然るべきものである。

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©2006/三上蓮音