参:夏の終わり [2/14]
内陣の手前両脇には、柱を背に側祭壇が設えてあり、向かって左手にイエス像、右手には幼子イエスを連れたマリア像が置かれ、少し高い位置から人々を見下ろしていた。
十字架像の両横には、背の高い燭台が三本ずつ、合わせて六つの蝋燭が灯されており、天使像もまた七枝の大燭台を手にしている。
主祭壇に近い位置にある赤い灯火は、聖体ランプであり、聖櫃内に聖体が納められていることを示す常明燈である。
何なのかは分からないが、「聖体」と呼ばれる某かの物がそこにはあるのだろう。
香が焚かれ、周囲には馥郁とした薫りが漂っていた。
生憎の天気ではあったが、側廊の壁面にあるステンドグラスの窓からも、鈍いながら柔らかな光が射し込んでいる。
だが、それだけでは光量が足りないのか、効果的に照明も灯されていた。
信者がベテルと呼び神の家と言う、この空間は、まるで外界から切り取られたかのように存在していると、蘇芳(すおう)は思う。
単に、馴染みがないからかもしれない。
救われぬことを知っている身としては、聖域と呼ばれる場所は、悉く居心地が悪かった。
参列者の姿は疎らである。
だが、思っていたほど寂しくもなかった。
next
┌ 小説Index
└ Index
©2006/三上蓮音