参:夏の終わり [1/14]

 参:夏の終わり


 数日後。
 その日は、朝から雨が降っていた。
 雨の雫のひとつぶひとつぶが、熱を宥めるように慰めるように触れては落ち、触れては落ちして、地へと辿り着く。
 天の恵みに洗われて、世界は人知れず静かに浄められて行く。
 再び空に還るその時まで、水は万物の恵みとなり、また、過ぎれば嘆きともなる。
 狂い始めた歯車は、まだ辛うじて外れてはいない……。

 永遠の回帰によって鎮められた空気は、漸く人心地がつくほどとなった。
 ささくれ立った人の心にも、雨は潤いを与えるようであった。


 聖堂の中に一歩足を踏み入れると、雨音は遠く聞こえなくなった。
 荘厳なミサ曲がパイプオルガンによって奏でられ、聖歌隊の少年たちが天使の声で歌っている。
 身廊の中央通路(アイル)を進むと、信者席を挟んで両脇に列柱が連なり、頭上はアーチ状のヴォールト天井になっているのが分かる。
 ロマネスク様式だろうか。立派な建物だった。
 通路の先にある、内陣(サンクチュアリ)と呼ばれる場所には、ステンドグラスを背に主祭壇が見える。天使らしき像が二体、十字架像に向かって跪いていた。

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©2006/三上蓮音