弐:口入れ屋「楸」 [11/11]

 「そうですね。蘇芳からその匂いがするのは確かなんですが……」
 結己は、曖昧に言葉尻を濁す。
 彼には特異な能力があり、それは「匂い」に特化している。
 普段は厄介なだけの力だが、時には問題解決の糸口となることもある。
 「それが何を意味するのかまでは、まだ判断しかねます。巳結絡みの品が、何か店にあるのかもしれませんし」
 「そうだねぇ……」
 「明日にでも巳結と会ってきます。一宮とも連絡を取りますから、くれぐれも蘇芳は勝手に動かないで下さいね」
 もう一度『琥珀』を覗いてこようかな、などという蘇芳の目論みは、呆気無く看破され、駄目を押された。
 このままただ様子を見ていればいい他人事に、わざわざ首を突っ込む羽目に陥るのは、偏に蘇芳の好奇心を満たすためだけである。
 放っておくと何をしでかすか分からない蘇芳を抑え込むには、それしか手がない。ということを、結己は嫌というほど学んだ。
 因果である。
 干菓子をお茶請けに珈琲を味わいながら、結己は報われる日が来ないのを薄らと知っているような気がした。
 珈琲は、すっかり冷めてしまっていた。


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©2006/三上蓮音