弐:口入れ屋「楸」 [10/11]

 二人とも、『琥珀』の店主、朝凪の死に関しては自然死を疑っていない。
 仮に事件性があり、他殺だとしたら、それは口入れ屋が関わる問題ではない。警察の領分である。
 「やはり、その女性の存在が気になりますね……」
 結己は呟いた。
 「何か分かったの?」
 「この件には、巳結が関わっているようなのですが、まだ彼女とは連絡が取れていないんです」
 「みゅーちゃんどうかしたの?」
 蘇芳は、巳結のことをそう呼んでは嫌がられているのだが、どうにも懲りない様子である。
 結己が幼い頃、舌足らずに呼んだのが始まりなので、彼としては苦笑するよりほかない。
 「いえ、工房に籠っているのでしょう。数日前にそんなことを言っていましたから」
 「手が離せないってことは、いちまさんか。……あれ? そういえば、あのお香はみゅーちゃんとこのかな?」
 巳結は、個人的に市松人形の修復などを行っていて、時々工房に籠り切りになってしまう。
 また、人形の衣装製作を生業としているのだが、着物には匂い袋を付けて渡すのが常である。
 蘇芳は、着物の女性から薫っていた香の匂いを思い出していた。

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