弐:口入れ屋「楸」 [9/11]

 「それはまた、都合のいい話だね」
 二人は、思わせぶりに視線を交わした。
 「ええ……。『琥珀』の店主である朝凪(あさなぎ)氏とは、巳結(みゆう)の紹介で知り合ったのですが、弁護士が必要とのことでしたので、僕が紹介したんです」
 巳結とは、結己の叔母である。年が近いせいもあって仲が良い。
 「弁護士は一宮(いちみや)というのですが、彼とも連絡を取り、何か分かったらこちらにも連絡が来るよう手配してあります」
 蘇芳は、デスクに置かれたファイルに目を遣った。
 彼が来る前に、一通りの仕事は済んでいたようである。
 「それで、他には?」
 蘇芳が先を促す。
 その顔は、どこか楽し気ですらあった。
 結己は、厭そうに顔を顰める。
 「一宮の話では、朝凪老は体調を崩し、身辺整理に取り掛かっていたという話です。それで弁護士が必要だったんですね。警察の話も併せると、やはり老衰、もしくは病死といったところだと推測されますが……」
 「たぶんそうだと思うよ。あれは事件性はないね」
 妙な確信でもって蘇芳は言う。
 「おそらくは。でなければ、蘇芳は今ごろ容疑者として身柄を拘束されているでしょうからね」
 「それで?」

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