弐:口入れ屋「楸」 [8/11]

 「おかげで、こちらは仕事が増えましたよ」
 結己は、今日何度目かのため息を吐いた。


 楸結己(ひさぎゆうき)は口入れ屋である。
 人に人を紹介し、何か困った事が起これば相談に乗る、問題を処理する。そういったことを請け負っている。
 だが、現代にそんな名の職業はない。
 強いて言えば、まとめ役(コーディネーター)や相談役(コンサルタント)といったところなのだが、やっていることは村の肝煎である。コーディネーターやコンサルタントを名乗るのも烏滸がましく思い、かといって肝煎というのも何だかおかしい。では、口入れ屋というのはどうだろうということになった。
 口を利くのだから丁度いい。どうせ通り名のようなものだから。そんな理由で、口入れ屋を名乗ることと相成った。
 蘇芳(すおう)とは、この仕事を始めた頃からの付き合いである。
 なにせ記念すべき依頼人第一号であるのだから、浅からぬ縁である。
 「現実的な話からしましょうか」
 結己はそう切り出した。
 「まず、所轄の担当者から連絡が来ました。蘇芳の照会は済んでいます。それと、『琥珀』の弁護士を存じ上げておりましたので、あちらに紹介しました」

next


小説Index
Index
©2006/三上蓮音