弐:口入れ屋「楸」 [6/11]

 「救急車を呼ぶ機転が働いていながら、どうしてそんなバカな発言が出来るんですか?」
 これは質問ではなく、愚痴のようなものだった。
 本人は一向気にせずトラブルの種を撒き散らしているが、それを刈り取るのはいつも結己なのだから無理もない。
 だが、その事に関しては蘇芳も思うところがあるらしい。
 「そうなんだけどさ〜。救急車とか来るの遅くて、つい手持ち無沙汰におばちゃんと話し込んじゃってさ……」
 長話が高じて、言わなくていい事まで話してしまったらしい。
 店主が店で倒れていたならばまだしも、奥向きでならば、何故そんな所に入って行ったのかと尋ねられるのは筋である。
 『欲しい物があって、声を掛けたが返事がない。それでちょっと覗いてみた』という話が、途中から『実は、着物の女性が、店の主人が奥で亡くなってるって言うから……』などと変化したら、それは誰しも不審に思うだろう。
 しかも、その女性はいなくなってしまったのである。
 近所の者に聞いても、誰もそんな女は知らないという。
 『琥珀』の老店主は独身で、自分は天涯孤独なのだと言っていたらしい。
 そして、それ以外の事は何も話したがらなかった。

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