弐:口入れ屋「楸」 [3/11]

 「相変わらず、結己は勘が鋭いねぇ」
 蘇芳は人好きのする笑顔を満面に湛え、悪怯れもせず言い放つ。
 「本当は結己の好きな練切にしようと思ったんだけど、あんまり暑くて発売中止なんだって。だから干菓子ね」
 誰もそんなことを聞いているのではないのだが、この男には言っても無駄というものである。
 結己も慣れたもので、ため息をひとつ吐いただけで追求はしない。
 マイペースな男は、「ところで、ちっちゃいのはどこ?」と周囲を見渡している。
 ちっちゃいの、とは結己が飼っているコザクラインコのことで、明るい若草色の体に朱色の顔をした小鳥である。
 アフリカ原産の輸入種なのだが、色変わりが多く、飼う者の目を楽しませる。結己が飼っているのはスタンダードカラーで、和をイメージさせることから「和菓子」や「練切」「ちっちゃいの」「小鳥」など、適当な呼ばれ方をしていた。まだ正式に命名されていないのだ。
 「もう寝てますよ」
 結己の視線の先を追って見ると、布の掛かった塊のぶら下がるポールがある。
 勿論その塊は鳥籠で、夜になったので、布を掛けて小鳥を休ませているのだった。
 「なんだ、つまんないの」

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