壱:熱夢の客人 [5/9]
すっかり外気にのぼせていた蘇芳は、「やっぱり冷房はいいなぁ」と、シャツの胸元を手でパタパタさせながら店内を見て回る。
店の外観もレトロモダンといった雰囲気だったが、商いの内容も和洋折衷である。良い具合に古き良き時代を留める品々が渾然と融合し、全体として何ともいえぬ趣を作り出していた。
時代がかった家具や陶磁器、銀器、洋燈に置き時計。その他にも、装身具などの細々とした物が所狭しと並べられている。
蘇芳の好みは、和物なら染め付け、洋物ならブルー&ホワイト。それに中国茶器が加わる。
色々と手を出した挙げ句、今は割と分かりやすいところに落ち着いているのだが、中でも蕎麦猪口やティーボウルといった小さなカップに凝っているのだから、分かりやすいにも程がある。
状態の良さそうな蕎麦猪口が幾つも並んでいたが、目下探しているのは、オールドノリタケのカップ&ソーサーだった。
ナーサリー(子ども用)で、他にティーポットとシュガーポット、ミルクジャグがセットになっているのだが、揃いのうち一客を破損してしまったのだという。
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©2006/三上蓮音