壱:熱夢の客人 [4/9]
これは所謂、昭和初期に多く建てられた所謂看板建築というもので、ならば三階建てに見える一番上の部分はマンサール屋根と呼ばれる物のはずだった。
「全然屋根に見えないんだけど……。普通に三階建てにしか見えないのは、見方が悪いからなのかなぁ?」
聞き齧りなのであまり正確なところも分からず、後で専門家に聞いてみようと、取り敢えずアングルを変えて何度かシャッターを切っておく。
通りを渡って近づいてみると、そこはどうやら骨董店のようだった。
入り口には、『琥珀』とだけ彫られた小さな木の看板が掲げられている。
磨り硝子のせいかあまりよく中が見えないのだが、茶器なども扱っているようである。
蘇芳の雑多な趣味の中には陶磁器の蒐集というのもあるのだが、今は訳あって知人のために探している品があった。
自分の物は兎も角、念のためそれだけは有無を確かめずにいられないと、蘇芳は誘われるように引き戸に手を掛けた。
鉄の呼び鈴が、音高くチリリンと鳴る。
思えば、暑さのあまり判断力が低下していたのだ。
建物に一歩足を踏み入れた途端、空気がひんやりと冷たくなった。
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©2006/三上蓮音